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最高裁判所第三小法廷 昭和24年(れ)156号 判決 1949年7月05日

主文

本件各上告を棄却する。

理由

辯護人菊地養之輔上告趣意第二點について。

原審第一回公判調書を調べてみると、菊地辯護人から原判決(二)の(イ)犯罪事実の被害者加藤義衞を(辨償關係につき)證人に申請したことが明かである。しかも原審裁判所はこの申請を却下しながら、右の加藤義衞提出の盗難届、盗難被害始末書及び盗難届追加三通を前記犯罪事実の證據として採用していること所論の通りである。しかし刑訴應急措置法第一二條第一項の法意は、供述録取書に記載されている供述をした者を被告人の訊問にさらし、供述の真実性を確めようとすることにあると解せられる。ところが、本件で前記の證人に訊問しようとすることは、供述録取書に記載されている供述の真僞を質すのではなくて、被害の辨償の有無である。してみれば録取書記載の供述の真僞については、被告人等は同證人を喚問する機會を與えられることを請求していないものと解される。辨償の立證のための證人申請は、録取書の供述者以外の第三者を證人に申請した場合と同様に刑訴應急措置法第一二條第一項による請求とは認められない。そうしてこの條項は、被告人の請求があったときに限り、その供述者を訊問する機會を與えれば足りるという意であること、當裁判所の判例に示されている通りである。そうだとするならば、原審裁判所が、加藤義衞を證人として喚問することの申請を却下しながら、同人提出の盗難届等を證據に採用したことを以て、所論のように刑訴應急措置法第一二條第一項に違反するものということはできない。論旨は理由がない。(その他の判決理由は省略する。)

以上の理由により最高裁判所裁判事務處理規則第九條第四項、舊刑事訴訟法第四四六條に從い主文の通り判決する。

この判決は、裁判官全員一致の意見によるものである。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

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